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DNAのある所


北海道での独り言
by tedtoyama
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自己紹介
男 
1996年から11年在住した米国シリコンバレーを後にして、2006年9月から北海道に移住。
パートナー2人と共に新しい生活を始める。
生まれて初めての北海道。
期待いっぱいで突進だ。
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DUIぢごく その二

サンタクルーズのダウンタウンから数ブロック離れた場所の病院に到着した。
生まれて初めて掛けられた手錠で手首が痛い。すれ違う看護婦に愛想を振りまく状態で
はなくとぼとぼとポリスの後を付いていった。
通路の一部がポコっと、トイレの個室分だけへっこんだような場所に座らされた。
丸椅子があり右手側に天井から床までまっすぐにつながったステンレスの細い柱があった。
ポリスは手錠をはずしにかかった。(そりゃそうだよな。採血するだよな。)と思いきや、左手から外れた手錠は右手を施錠したままステンレスの柱につながれてしまった。(そうか、片手が自由になれば採血出来ますねぇ。徹底してるなぁ。)と妙に感心してしまった。
ただどういうわけか、後ろで両手に手錠が掛けられているときよりみっともないというか恥ずかしさが倍増した。
そのまましばらく放っておかれた。興奮しているせいか眠くない。喉の渇きも忘れていた。
急に斜め前のドアが開きポリスと一緒に看護婦が出てきた。ちょっとマジぃー?というくら
い美人であった。名残惜しくもあっという間に採血は終わり、また手錠がもとの状態になった。
再びポリスカーに乗せられ数ブロック離れた場所に連れて行かれた。
「サンタクルーズ・カウンティ・ジェイル」と書かれていた。(ジェイルかぁ、ブタ箱かぁ、しびれる)
入り口を入ってすぐ、銭湯の脱衣場のような場所で所持品と靴とズボンのベルトを接収された。
携帯電話を渡す際にちらりと時間を確認した。午前3時30分だった。体中触られてその他不審物がないかチェックを受けた。さっき山道で手錠を掛けられる前にも、車のトランクに両手をつき両足を広げた状態で後ろから同じチェックを受けたなぁ。テレビや映画で見る犯罪者とまったく同じ扱いだった。
目の前にある二重ドアの向こう側は、まだ見ぬ、決して憧れてはいませんが、未知の
世界その名も「りゅうちじょう」なんですね。置かれている状態をすっかり忘れ、知らない場所への興味で一瞬心がいっぱいになった。が、ドアが開いた次の瞬間正直びびった。
奥の薄暗い所から男の咆哮が聞こえた。「うぉー!うぉー!」入り口に近い部屋の奥からは複数の女のカナキリ声、その隣の部屋からは男のいびきとボソボソした話し声。
動物園の肉食獣セクションだ、と思いましたね。一瞬にして緊張した。こりゃー食われる
ぞ、と本気で感じてしまった。部屋に収監されるまでの数秒間、必死で全身に気合を入れ目に力を込めた。アンドレザジャイアントだろうがウィリーウイリアムスだろうがジェイソンだろうが怖かぁねえぞ、と全身をはったりの塊にして入室した。(若い人は誰だかわかんないでしょうね、カタカナの名前の人たち)
12畳ほどの男性雑居房だった。入り口のドアに15センチ四方のガラス窓、室内は壁も天井も床も白で統一されていて、天井近くに明り取りの小さな天窓が一つ。奥にはドアのない小部屋があってステンレスの便座の一部が見えた。先住民は4人であった。壁側に備え付けられた木製の長いベンチに3人が横たわっていて、一人はさっきのいびき男(一見20才台で、私さっきハンバーガー10個食べました見たいな白人のトド)後の二人は横たわってお話していた(中年のマウンテンゴリラのような刺青二人衆)。残る一人は中央の土間にあぐらをかいて座り両手で体を抱き包み震えながら上半身を前後に揺らしていた中南米系のスーパーマリオみたいなやつ。(ヤクが切れたかぁー?)
入室しても誰も何も関心を示さなかった。寝てるやつはともかく、ゴリラもマリオも一瞬たりとも私に注意を向けなかった。
猛獣相手に油断は禁物とばかり、全身ガッチン、ガッチンに気合を入れつつ、ドア側の壁に背筋を伸ばしてお釈迦様のような格好で座り込んだ。
ゆっくりと周囲を何度も何度も観察した。お!トドの横に公衆電話のようなものが2つありますね。後は大小の張り紙がいくつかあちこちにある。文字の大きさで読めるものを見てみると
「保釈金にお困りの際は何々金融まで」とかがほとんどであった。
相変わらず外から聞こえる咆哮を、あれは他人と一緒にしておくと危険なやつを入れておく独房だな、隣は女性雑居房か、などと一通り内外の観察を終えた。
やっと冷静に自分の今後について考察する余裕ができた。明け方に入所したんだし初犯
だからすぐに出られるだろう、そういえば車はどうなったんでしょうか、あのまま置きっぱなしになっていることはないだろうからどこかにトウイングされていて引取りにいくんだろうなあ、罰金とか免許の扱いとかはどうなるのかなあ、等等まあ時間はいっぱいあるしじっくりね。の感じだった。
部屋には時計が無い。さっき午前3時30分だったからもう4時は過ぎているだろう。今は2月だから外が明るくなるのは、晴れていて朝8時過ぎか、などと考えていた。時間が分からないのはこういった状況では特につらい。何時になれば、また、あと何時間で状況が好転するのかといった確証が無い中で、その基準となる今の時間すら分からないのは普通の日常生活を送る人間にとって大変不安な要素だと再確認した。でしょ、ここは普通じゃないのよ、反省してね、つらいでしょ、不安でしょ、とそんなことも含めた意味での心理作戦だなと感じ、またしても感心してしまった。
気が付けば、隣のカナキリ声も独房の咆哮も聞こえなくなっていた。マウンテンゴリラたちもスーピー、スーピーちょっと思惑とは異なった寝息を立てていた。スーパーマリオは前後の動きを止めていた。
一応冬の最中ではあったが室内は暖房があるわけでもないが寒さを感じず、ゆるやかに時は過ぎていった。本当にゆるやかに。
喉の渇きを覚えなかったのと、便意、尿意を覚えなかったのは幸いであった。体験として便所を使い、お腹すいたよぅ、喉が渇いたよぅ、と訴えてみたい気も少しはしたができなかった。
長い長い時間だった。ようやく外が白々してきたらしい。朝だ。もうちょっとだ。と元気になった。
明るくなるのを待つとと同じくらい時間が経ってマウンテンゴリラの一人が呼ばれて出て行った。その後は多分30分くらい毎に、トド、マリオ、ゴリラの順に呼ばれていった。そして私以外誰も居なくなった。別に雑居房の留置場で独りぼっちになったからといって寂しく
も無いのだが変な気分だった。一人残されてしまった。からか?いやいや彼らは先に拘束されていたんだから順番じゃん、次はオレね。などと思っていたら新入りが入ってきた。
マイアミバイスに出てくる南米系のヤクの売人風の男だった。「私薬売ってます。ついでに打ってます」という感じのハリネズミであった。
(何だよ!挨拶も出来ないのかよ!けっ!新入りが!なんか文句あるのかよ!俺は文句ないけどよ)みたいななんだか分からない仁侠映画状態になっていましたね。不思議です。
するとしばらくしてハリネズミが呼ばれて出て行くではないですか!うそぉー。この瞬間に、順番だよ、待てばそのうち分かってくれる、大丈夫だ次は君だ、あと少しの我慢ね、と、考え考え希望を抱き、納得し、疑問を抱いてはそれを打ち消してきた今までの数時間がすーっと無くなった感じがしました。
俺はどうなっているんだ、順番じゃないのか、何が原因でそうなるんじゃ?早く出してくれ、今何時ですかぁー、と、ちょっと切れそうになりました。
これも作戦かぁ?留置場に居るみんなを使って俺一人に対する作戦かぁ?何の作戦じゃ?
初犯の飲酒運転に対してそこまでやるか?今までの全員バイトの効果さんかぁ?と本気で思いました。
ゆっくりゆっくり時が過ぎました。入り口にある小さな窓をずーっと眺めるようになりました。
人影が動き誰かが中をうかがっているようでした。すかさずドアに向かい注意を促しました。
ドアが開き係員が何でしょうか?と訪ねました。今何時ですか?みんな出て行って私一人なんですけどどうなっているんですか?と必死で訪ねました。
後で思い出しましたが、予定通り、お約束といったお仕置きの後のような情けない顔をしていたと思います。
そのときはほんとに必死で質問というか嘆願というか、お願いをしていました。
彼はファイルを眺めて、「今ぁ?10時ね。おお、もう出ていいころだね、だいぶ時間が経ってるね」とうっすら笑みを込めた顔で答えて去っていきました。
よっしゃー!わかってもらえたね。そうでなきゃぁー、とやっと元気になりました。
結局出所手続きのために呼ばれたのは、その後3時間以上経ってからでした。
結構精神的にぼろぼろになっていました。
反省を促すための過酷な懲罰なんですね。心理的にも肉体的にも疲れました。
10指の指紋を取るのだという。あーそーですか、どーぞ。とどんな指紋採集機器なのか
またまたわくわくした。読み取り機がどんくさいのか?担当がとろいのか?なかなか読み取りが進まない。
一つの指の指紋を読み取り画像処理する。同じ指を再び読み取って照合する。OKだったら次の指に移る。を繰り返すこの処理にはほとほと閉口させられた。マシンもダサいが、担当が下手でなかなか進まない。だんだんと読み取り時の要領を得てきたので
そのように指を動かすと注意された。バカ!
本当にバカであった。
好きにしろ!と思い作業にまかせていたら最後の右手の薬指と小指はどうにもならず、担当者は2度目の読み取りの際の照合がうまくいかないまま、最初のデータを無理やりセーブしていた。見たぞぉー!何にも言わないけど80%の個人指紋データしか登録しなかったな、お前!
ばーか!
その後は写真撮影だった。後ろに身長が分かるように横線が引いてある、ほら、映画やテレビでよく見かけるあのシーンのようなバックで写真を取られたわけです。
当然にこやかにピースはしませんでしたが、はい、チーズ顔をしたわけです。
初めてでした、写真撮影時に笑うな!と言われたのは。
はいはい、と、でも精一杯にこやかな顔で写ってやりました。
撮影後は所持品の返還があり、トウイング(レッカー移動)された車の引き取り要綱や、免許の扱いなどの説明書類、出廷要求同意ドキュメントなどにサインして開放された。
午後一時40分だった。

やれやれやっと終わったね。すごい体験だった。それにしても飲酒運転とはいえ日本と違って
大変なことになるのだなぁ、と何時間ぶりかのタバコを楽しみながら、しゃば、じゃ!と深呼吸していた我が身は、重ーくのしかかってくるその後の試練に何ら気付いていなかった。

続く

by tedtoyama | 2005-03-09 16:40 | 日記
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